ギターのはなし

  1. 良いギターとは 〜ギターファンの陥りやすい判断の誤り〜
  2. 弾きやすさについて(弦長だけで判断しない。)
  3. ギターの買い替え(グレードアップ)の前に
  4. まとめ

良いギターとは 〜ギターファンの陥りやすい判断の誤り〜

ギターは沢山の短所のある楽器です。例えば、音が小さい、従ってダイナミックレンジが狭い、音域が狭い、どんな和音でも出せる訳ではない、それに加えてやたらに難しい。では、どうしてギターが素晴らしい楽器なのでしょう。長所としては、価格が安いものから始められる、一人で楽しめる、持ち運びに便利、1台でメロディ・コード・リズムの全てを表現できる、更に、単純なコードでも実際より厚く感じられる等々が挙げられますが、何と言っても決定的なものは、「あらゆる楽器の中でもっとも美しい音で、弾き手の感情を直接表現できる」ことにあるのです。弦楽器の中で、指で直接弦を弾くのはギターとハープだけですが、微妙なニュアンスが出せることで圧倒的にギターが優れています。要するに、ギターの良さとは「音の美しさ」に尽きると言って過言ではありません。従って、良いギターとは、「美しい音を出せるギター」と言えます。

「音の美しさ」と言っても、まるで抽象的で掴まえどころのない話です。そこで、この「音の美しさ」をもう少し具体的にイメージできるお手伝いをさせてください。これこそが、「良いギター」を手にするために一番大切なことなのですから。

「美しい音」を自分なりに(美しい音に対するイメージは一人一人違っていて構わないと思うのですが)はっきり把握するために手助けとなるポイントを次に挙げてみましょう。それ等は言葉の純粋な意味での「美しさ」を直接的に論ずるのではないのですが、音楽を表現する道具であるギターに必要なものは一体何か、ということには全て関係しています。それこそが「良いギターとは何か」に対する答えに結び付くはずです。

1.高音ばかり良く鳴るギターは要注意

ギターファンのほとんどがメロディー重視の誤りに気付いていません。ギターを選ぶ時、高音(特に1、2弦)の鳴りかたが一番気になりませんか? 当然、高音は美しく伸びやかに鳴り響かなくてはいけないのですが、問題は、どんな音なら鳴り響いていると言えるのか、です。ついつい、1弦が鳴っているギターを良いギターと錯覚しやすいのですが、1弦と同じように、いやそれ以上に中低音が鳴り響いているかに注意を払いましょう。これは簡単な例をあげればすぐ理解して頂けます。ピアノの最低音と最高音の鳴り方を比較してみて下さい。グワーンとなる低音に比較すれば高音はピンピンと、か細く鳴っていませんか。でもこれでバランスが取れているのです。何故でしょうか。人間の器官というのは、非常に便利、合理的にできていて、耳の場合なら、例えば本を読むのに夢中になれば周りの音を全く聴こうとしませんし、聴きたい音があればちゃんとその音を他の音から選別して聴くことが出来るということは皆さんよく経験なさっているはずです。ですから、メロディー部分 (高音に多いわけですが)は少し小さめでも、しっかり聴いているわけです。逆に言えば、メロディー部分以外は少し強めで丁度良いということが言えます。

「和音を弾く場合、下の音を少し強めに弾きなさい。(要旨)」(藤原義章著「リズムはゆらぐ」)ということは演奏上の注意ですが、楽器本来の性能的にも同じことが言えると思います。土台がしっかりしていない音はやはりダメで、高音だけが鳴っているのでは結局音楽が薄っぺらなものになってしまうというわけです。何故かギターファンには高音重視主義の人が多いのですが、面白いことに、ギタルラ社が1965年の創業以来扱ってきた銘器中の銘器といわれるギターは全て低音が充実して鳴り響き、高音部は決してファンファン言うのではなくピーンと突き抜けるか、スイスイと抜けの良いギターばかりでした。

2.倍音がやたらに多いギターは要注意

よく芯があるとか、芯が強いとか言います。これも難しいですね。「芯」というのは「基本の音、或は実音」と理解して下さい。要するに、今弾いた音そのものです。実際には、弦が振れて楽器が反応し、更に他の弦が共振することで多くの倍音が発生し、複雑な響きが生まれているのです。例えば、1弦の12フレットを押さえて、弾いた直後に右手で1弦のみを消音してみて下さい。消音したはずなのにファーンと響きが聞こえますね。これが倍音なのです。

さて、この倍音が豊かに鳴ると実に気持ちよいものです。風呂場で歌ったり、エコー付のカラオケマイクを思い浮かべれば一番近い感覚でしょうか。ところが、ついついそうした倍音の多いギターが良いギターだと錯覚してしまうことが問題なのです。絶対に必要なものだけれど、それだけではそれこそ絶対ダメというのが倍音です。何故なら、手許では良く響いていて気持ちよいけれど、倍音には遠鳴りする力はありませんし、和音が濁ってはっきりしなくなりますし、中低音にメロディーがきた時などモコモコしてしまう等々の欠陥がどうしても出てしまう上に、結局そうしたギターは耳が疲れ易かったり、音が単調ですから音色そのものに「飽き」が来やすかったりするものなのです。従って、良いギターは必ず「芯のある」ギターなのです。

正直に言いましょう。最近の海外からの若手演奏家は実は芯が細く、倍音のやたらに多いギターを使っていることが多くなりました。素晴らしい名手揃いではありますが、音は軽く、ピャンピャンとかヒュンヒュンとか表現される音ですから、どうしても心に訴える力は弱く、「上手いなぁ」以上の感銘を余り感じないのは音そのものの力に一端の問題があると思うのです。ヨーロッパやアメリカでは、日本にはいくらでもある銘器に出会うのは全く希なことです。しかも価格も日本国内とほとんど同じという事情から、彼等が自分の意見を反映させやすい製作家にギターを作らせるのは判りますが、世界一流のバイオリニストが現役製作家の作品を弾いているなんてことはまずないのですから、どうもそうしたギタリストの意識と感覚に問題がありそうです。ギタルラ社を訪れた、ある有名ギタリストがアグアドやフレタを弾いて「高くて買えない。」と言ったのにはあきれたものです。彼より経済的には決して恵まれているとはいえないはずの日本のギタリストが借金してでも最高のギターを求めようとしているのに、何という違いでしょう。音の良さについて言えば、日本人はむしろ日頃から最高のギターを身近に弾いたり、聴いたりできるだけにもっと自信を持っていいはずです。演奏家の方々も自分が追求してきた音を更に推し進めていって良いと思います。

最初にギターは「音の美しさ」が一番と言いました。「美しさ」というのは決して単純な意味ではないのです。この一番大切なことを抜きにしてはギターを弾く意味が薄れますね。

3.ウルフトーン(狼音)が余りはっきりしているギターは要注意

ギターは一つの箱(共鳴体)です。従ってその箱が一番鳴り易い音の高さというものを必ず持っています。試しにご自分のギターの1弦開放弦から12フレットまで、ゆっくりと同じ力で順々に弾いてみて下さい。必ず2ケ所、隣の音より良く鳴る、或は響くと感じる場所が見付かるはずです。1オクターブの中で2ヶ所特に共鳴し易い、これはギターに限らず、アコースティック楽器全てに生じるのですが、実はこれこそがウルフトーンと呼ばれ、よく鳴っているのではなく、狼が吠えているのに似ているという意味からつけられた名前なのです。では、このウルフトーンがない楽器はないのでしょうか。結論から言えば、ありません。でも、目立たない楽器は数多くあります。即ち、ギターでいえばフレットとフレットの間にウルフの場所が来ることで、どちらの音も余り目立たないという訳です。この辺りが鳴り易いかな、という位が良いギターの条件を満たしていることになります。

ウルフがあって困る場所というのがあります。それは丁度開放弦にぴったり合ってしまう時で、特にミ、レ、ラは実用上困る場合が多く、避けたいものです。ミにある場合、1弦12フレットもよく鳴る訳で、アマチュアは「このギターは良く鳴る。」なんて錯覚しやすいので気をつけましょう。大体ミ音などは他に共鳴し易い弦を元々いくつも持っているのですからウルフ等避けなくてはいけない位置なのです。要するに、どこかの箇所が「極端に」ウワーンと鳴るのは悪いことであり、或る音にぴったりとウルフが来ているギターは、その音が大事なところでよく使う音の場合は避けましょう。

「極端に」と書きましたが、極端でなければギターの場合には、ご自分の楽器の特徴として演奏時に気をつければ済む場合が多いからです。ヴァイオリンのような弓奏楽器は、全く「楽音」にならないのですが、ギターはそれ程ひどいのはマレであることも頭に入れておいて頂きたいと思います。銘器フレタやハウザーのほとんどにかなりのウルフがあるのも事実ですから。

4.鳴らないギターの音は「美しい」

ギターは他の楽器に比べて音量の小さい楽器です。ですから少しでも音量のある楽器は良いギターといえますが、音量を追求すると音質とのバランスが難しくなります。しかし、そこのところを克服しているギターが本当に良いギターなのですし、そうしたギターはちゃんと存在しているのです。

時々、「私は音質重視なので、音量はなくても美しい音のギターを選ぶ」という人がいて、まるで鳴らないギターを後生大事に持っていたりします。音質重視は結構なのですが、こうした人は「音質」という意味を非常に狭く捉えていると言えましょう。電子楽器の音はその純粋さから言えば誠に「美しい」のですが、それを美しいと感じる人は少ない筈です。楽器である以上、しかも音量の小さいことが欠点とされるギターである以上、よく鳴り響いて、しかも多彩な表現に応えうる美しい音、これこそが求められねばなりません。鳴らないギターは、貧弱な基音と、ほんの僅かの倍音しか持ちませんから、音そのものは純粋ですっきりしています。要するに「美しい」のです。でもそうしたギターから生まれる音は、表現の幅も当然狭く、魅力的な音であるはずもないので、結局のところ奏者を満足させることも出来なくなるに違いありません。

5.重い音と軽い音

野球投手の球に重い軽いがあるように、ギターの音にも重い軽いがあります。重い音、というのは決して鈍い感じではなく、結構敏感でありながらズーンと質感をもって伸びる音です。遠達性に優れているだけでなく、音楽表現上もオールマイティーな利点を持ちます。というのは、重い音は弾きかたによって軽く聞こえるようにもできるからです。この逆は不可能なのです。従って、鋭敏さを備えていれば「重い音のギター」は大変良いギターと言えます。「鋭敏さ」と「重さ」とは決して相反するものではないことを記憶しておいてください。

さて、上のように言うと軽い音はそれだけでダメなように聞こえてしまいます。しかし、決してそんなことはありません。歴史的な銘器の中にはむしろこの軽いタイプの音を出すギターの方が多いのですから。問題は、ただ軽いだけではやはりダメということにあります。「軽いけれども良い」ためには、高音部がキツイ或は強い、或は引き締まっている感じで、低音部はゴーンといわゆるドスのきいた響き、そして全体的には優れて鋭敏なことが必要不可欠です。こうした音なら決して軽っぽく聞こえることはありませんしし、ゴーンと鳴る低音などは、よく重い音と間違われることがある位です(あの迫力あるフレタの音は分類すれば軽い方に入るのですヨ)。

弾きやすさについて(弦長だけで判断しない。)

弾きやすさというのはとても大切なことです。やたらと大きかったり、ゴツゴツしていたり、張力が馬鹿に強くて指を痛めるようでは困りますが、多くの皆さんが錯覚或は思い込んでいる「弦長」について考えてみましょう。

弦長ばかりを問題にしていませんか。かつて60年代、70年代、ラミレスの影響が大きかったと思うのですが、弦長660ミリ以上でボディーも大き目のギターが数多く作られた時代がありました。大きいギターは大きい音を出し易いというわけで、安易に大型化した時代でした。しかし、80年代に入ってから、無理に大きなギターより身体に合ったギターで楽々と弾いた方が伸び伸びとした演奏になりますし、音量についても別に問題はないということが判っていたこともあって、650ミリのギターがむしろ主流になりました。

ただ、ここで一つの錯覚が生じました。弦長650ミリ、或はそれ以下が弾きやすいギターの前提条件になってしまったことです。弾きやすさに通じるギターの大きさが、弦長のみで判断されるようになってしまったことです。

弾き易さとは、弦長以上にネックの形状(幅や厚さ)やボディーの大きさと厚さ、更に弦高や張力に左右されることを知ってください。例えば、650ミリのラミレスより660ミリのアグアドや657ミリのオリベの方がずっと弾きやすいことをご存じですか。女性や特に指の短い方ならともかく、一般の男性なら660ミリ位まではあまり問題にならないはずですので、650ミリにこだわるよりも実際に弾きくらべてみて、弾きやすいかどうか判断しましょう。

ギターの買い替え(グレードアップ)の前に

1.買い替えの時期とポイント

(1) ホップ、ステップ、ジャンプ方式で

現在ここをお読みの方は、ほとんどがギターをお持ちの方と思いますので、「買い替え」に絞って話を進めましょう。多くの方は最初数万円の量産ギターでスタートなさっていることでしょう。恵まれていて最初から手工品という方もおいででしょうが。

ともあれ皆さんは「ホップ」の段階は終えているわけですが、ギターを持って1〜2年、或は2〜3年もすると、もう少し上のランクのギターが欲しくなるのは当然です。経済的に余裕があるか、腕前が上がったか、腕前が上がらないのはギターの所為と責任をギターに押し付けるか、は別にして当然なのです。

そこで考えて欲しいのは、ギターを弾くということは一生涯続けることができる楽しみですから、どうしても一気に「ジャンプ」したい人は別にして、一般的にはステップ、ジャンプと3段階を考えたら如何でしょうか。まだギターのことをよく知らない段階でいきなり「ジャンプ」するより良い結果が期待できるに違いありません。

ホップ(スタート) ステップ(1〜3年後) ジャンプ(5〜10年後)
量産品 30〜50万円の手工品 80万円以上の手工品輸入品
手工品 50〜80万円の手工品 100万円以上の輸入品

上のような図式が考えられます。ここで「ジャンプ」は80万円以上としましたが、この「以上」というのは大変な幅があって最高価格(必ずしも最高品という意味ではありません)では500万円位までも各種ギターがあるのです。この辺になると経済力が物を言いそうですが。

(2) いつ「ステップ」或は「ジャンプ」するのか

何となく、良いギターが欲しくなった、或は少し腕前が上がったせいか先生に勧められて、或は友人のギターがどうも自分の物より良いので、等きっかけは沢山あることでしょう。

ここでのポイントは、何といっても「自分のギターに飽きたらなくなった時」でなくてはいけません。「ステップ」であろうが「ジャンプ」であろうが、あくまで「このギターじゃダメだ」と感じた時が次の段階へのグレードアップ時期であるべきです。よく判らないのにギターだけは高いものにするなんて愚の骨頂、無駄遣いです。良いギターを持てば腕が上がる、とよくいわれますが、良いギターを持つことの必要性と、持ったことをちゃんと判ることで初めて腕が上がるのです。ここは大切なところです。自分のギターに飽きたらなくなり、より良いギターを「確かに違うな」と判って初めて、買い替えが成功、ということです。

ギターの良否が判断できないうちは、買い替えは控えましょう。ちゃんと判って初めてグレードアップの結果の満足と、それに伴う腕前の上達が得られるのですから、判らないうちは決して買い替えなどしない方が得策です。人の意見なども聞く必要はありません。ギターを買い、弾くのはあなた自身なのですから。

2.耳を鍛えましょう

判らない内は買うな、と言いました。でも、ずっと判らないままではいくら何でも淋しいですね。腕前だってまるで上がっていないに違いありません。腕が上がってくれば当然現在使用中のギターには飽きたらなくなるものですが、さて、その次の段階のギターを選別するという難しい問題が生じました。自分のギターには飽きたらないが、かと言って上のクラスのギターを自分で判断できるだろうか、という状態です。(2)で述べたように、ギターの良否が判らないうちは買い替えを控えた方が良いのですから、ここで自分の耳を鍛える必要が出てきた訳です。友人のギターが良いギターだと判りますか。先生のギターはもっと上のギターだと判りますか。これは第一段階に過ぎないのです。何故なら、自分のギターよりずっと高額のギターなら大抵の場合、やはり良いというのは当然でしょう。こんな段階で買い替えをしてしまって失敗なさる方は意外と多いのです。本当に大事な事は、あなたの買い替え予算(例えば50万円)の範囲内のギターでもいろいろあるのですから、同じ価格のギターの中でどのギターが良いのか、自分にあっているのはどのギターかを判断できなければ、意味がないでしょう。これこそ買い替えで一番大事なことなのです。

そこで、耳を鍛えましょう。弾き易さや外観の美しさは誰でも判ることですが、音という全く捉えところのないものを、基準の中心に据えなくてはならないのですから、何としても耳を鍛えなければなりません。

3.耳の鍛え方、どうすれば耳は良くなるか

ギターの一番大切な、そして他の楽器とは比べ物にならない長所、それは音色です。その音に対する感覚を育てない限りギターを持つ意味はガクンと小さくなってしまうのではないでしょうか。良い音とそうでない音をはっきり識別するのは、実は容易なことではありません。長い経験と、好みに対するはっきりとした認識を併せ持つことが必要でしょう。

*数多くのギターを弾いてみましょう。

友達のギターでも、あっ、いい音だな、と感じたら弾かせてもらいましょう。この場合、あくまで自分で弾いた音で判断してください。人が弾いているのを聴いているだけでは、絶対に、音に対する感覚はほんの僅かしか向上しません。自分で弾いて初めてその音質がよくわかるようになるものなのです。何故なら、あなたはずっと弾いている自分のギターに対する評価は規準として持っているのですから、他のギターを同じ条件(即ち、自分で弾くこと)で比較しなくては意味ないことになります。人が弾いている時は良いと思ったけれどそれ程ではなかった、ということは結構あることなのです。自分よりはるかに上手な人が弾けば、それ程たいしたギターでなくとも良い音を出すのは当然です。あなたは自分のギターの能力を50%しか出していないかも知れないけれど、相手はそのギターを能力一杯響かせている可能性は十分あるでしょう。それに、あなたがギターの持つ能力の50%しか出せないとしても、試してみるギターでもその能力の50%というように同じ割合で弾くわけですから、ちゃんと優劣を判断できるという訳です。

*レコード(CD)の聴きくらべをしましょう。

人間の耳というのはかなりいい加減なところがあり、同じ音を聴き続けるとその音に慣れてしまい易いのです。「あれっ、この音軽っぽくて嫌いだな。」なんて聴き始めたはずが、5分もしないうちに気にならなくなって音楽だけを聴いていたりするのです。でも、すぐに他のCDを聴いてみてください。前の音に慣れているはずの耳がちゃんと音色の違いを聴き分けてくれるはずです。同じ音にはすぐ鈍くなるくせに、他の音には常に敏感、これが人間の耳です。

*聴きくらべた結果をただ何となく感じることから、言葉に表してみましょう。

これは実物のギターを弾き比べる時も全く同じなのですが、この「言葉ではっきり音の特徴を表現する」ことは大変役に立ちます。
明るい、暗い、軽い、重い、伸び伸びしている、つまり気味の、よく広がる、抜けが良い、分離が良い、重厚な、男性的な、女性的な、艶っぽい、色彩感がある、力強い、サラッとした、ねばり強い、透明感のある、線が太い、細い、ザラザラした、すっきりとした、滑らかな、気品のある、等々あらゆる形容詞を聴いた音に当てはめてみましょう。初めてのギターを弾いた途端、いくつかの形容詞が浮かぶようになったら、あなたの耳はかなり鍛えられてきたと言えましょう。

*ギター専門店のハシゴをしましょう。

ギター専門店をちょくちょく訪ねてその都度数本のギターを弾かせてもらいましょう。冷やかしで構わないのです。出来たらハシゴしてください。店によっては、すぐ買いそうでない客に何本も弾かれるのを嫌がるかも知れません。そんな時は「1年後には買いたいと思っているので」というように話して理解してもらいましょう。

お店の試奏で注意して欲しいことは
・ ボタンやネクタイピンでギターを傷付けないようにしましょう。
・ 汗をかいたままの状態では弾かないでください。セラニックニス仕上げの高級品は湿気に弱く、すぐ白く変色してしまいます。
・ 左手親指を立てる癖がある人は、爪キズを付けないように特に注意しましょう。
・ あくまで自分の耳を頼りにしてください。もしよく判らない時、店の人の意見を聞くのは悪いことではありませんが、あくまで参考に留め、自分の耳で判断できる時期を待ちましょう。そう、きっとご自分で判断できるときが来るものです。

4.中古ギターについて

昔も今も、世界中で中古ギターは新作と同じく流通しています。ギタルラ社もまた、他店と同じく中古ギターの販売にも取り組んできています。しかし楽器とは、もともと価値判断や価格査定に独特な難しさを持つ商品ですから、新作にもなお増して中古品の下取りや販売には神経を使います。

とにかく新品より値段が安いのが最大の魅力ながら、良い買い物をするのが決して簡単ではないのが中古ギターです。正直申し上げれば、失敗なさる方が余りに多いのです。そこで、ギター専門店として最も長いキャリアを持つ当社の実績をもとに、ユーザーの皆様に是非とも知っていただきたい事の数々をまとめてみましょう。

*(外観と音)

新品と中古の違いの第一はその外観です。前ユーザーの取り扱い方によって相当の差も出ますが、経年変化によって塗装は色褪せてきますし、大なり小なりキズも増えてきます。ただし、外観が悪くなり過ぎたギターがキズ補修と再塗装を施され、見かけ上は新品同様となって店頭に並ぶ場合もあります。

次に、最も重要な音質ですが、これは必ずしも外観と一致するものではありません。高品質ギターの場合などは、ある程度の年数を経てからの方が良い音になる傾向もあります。そして、もともとの耐久性や前ユーザーの弾き方によって、中古として販売されるギターの性能は大きく異なってきます。2年にも満たない間に音の輝きを失ったギターもあれば、20年以上の歳月を経てもなお堂々と鳴り響くギターもあります。そしてこの両極端の2例は、特に高級品にあっては決して珍しくないのです。

*(価格設定)

分野を問わず中古商品の価格設定の目安は新品価格で、経過年数によって新品価格から何割落とすかを決めるのが普通です。ギターも概してその例に洩れませんが、音という難しい要素があるために、必ずしも単純な計算式から査定額が出てくるわけではありません。

私どもギタルラ社が扱った事例ですが、同じ銘柄でありながら一方は、20万円、もう一方は新品価格の約2倍となる、300万円で販売した中古品があります。それは高級ギターとして最も普及してきたホセ・ラミレスですが、一方は経年変化で音が不鮮明になったもの、そしてもう一方は優れた使用材と入魂の製作術により、本来の甘美さと力強さを合わせ持つ音質を備え、今の新作をはるかに凌駕する逸品と当社が評価したものです。

そういった特例を除いた一般論として、中古品はディスカウント商品的な性格を持ち、新品価格の何%引きかという点だけが強調されて販売されがちです。これこそが落とし穴です。価格の低さに目がいくのは当然ですが、やはり極度に大きな割り引き率が設定されたギターには要注意です。商業常識として、小売り店が破格の安値で品物を売るのは基本的に不可能だからです。現実に散見されることですが、外観もまずまずで比較的新しい中古ギターが新品の例えば3割程度の値段で売りに出されているならば、その新品価格設定が本来正当なものではないと言えます。電器製品やカメラなら、メーカーによってその小売価格(希望小売価格)と品質はほとんど差の無いものと言えます。ところがギターの場合、製作家によって或は輸入品ならその取扱店によって全く品質を反映しない価格設定がなされることが多く見受けられます。150万円の輸入品が国産の50万円の楽器よりも劣ることなどいくらもあるのです。国産品同士でも輸入品ほど極端ではありませんが、同様のことは残念ながらあるのです。もう一つは、何らかの大きな欠陥を持っている可能性があります。特に音質の劣化はかなり上達した人でも判らないと言うのが現実です。腰抜けの音を枯れた音と勘違いしている人のなんと多いことか。

以上のように原則として「掘り出し物」の中古ギターはあり得ず、おおむねその品質に見合った、或は、新品価格が実力以上に設定されている場合ならまだ高い価格設定に落ち着いてくるものなのですが、まれに例外もあります。それは前ユーザーがほとんど使わないままに、何らかの事情で手放すことになったギターです。例え半年程度の所有期間であったとしても中古扱いとなり、おおむね新品の2割引前後で売りに出されることが多いでしょう。この場合その新品価格が品質に見合ったものならば(実は上に述べたようにこれが大きな問題なのですが)、実質を重んじる人にとっての確かなお買得品です。

*(購入時のチェックポイント)

中古ギターの点検項目です。信用出来る店なら、下取りや買い取りの時点で検品と必要な補修を行うものですから、本来は不要と言えるかもしれません。

しかしユーザー間での取り引きでは、普通はそのようなチェックは入りませんし、お客 さんからの委託で中古ギターを預かり、代金精算は売れた後というお店もあって、その場合ですと検品も少し甘くなりがちです。
また、売買とは関係なく自分のギターを良い状態に保つ為にも、以下の点検項目はすべてのユーザーに知っておいて欲しい事ばかりなのです。

1.ネック(棹)

反りの有無をチェックします。ネックは各々違った部材である本体と指板を貼りあわせたものですから、気湿変化にともなう伸縮の度合いが異なります。さらに弦の張力も影響しますが、その弦に引っ張られてお辞儀したように歪むのを「順反り」と言い、反対に裏板方向へ歪んだものを「逆反り」と言います。
経年変化で生じてくるトラブルの代表格で、順反りでも逆反りでも弦高(フレットから弦までの距離)が狂ってきますので、著しく演奏困難となったり、音がビリついたりします。
反りの判別には少々の経験が要ります。もともとギターの棹は少しお辞儀した状態にあるもので、これは12フレット上で最大振幅、ナット直近で最小振幅となる開放弦振動の特性を考慮した工法です。ギターの頭部からブリッジ部を見渡すと、その状態をよく視認できます。
問題はどの程度の変形なら反りなのかという点ですが、前述の方法で見渡した時に棹の左右の端に注目して、そこがアーチ状の曲線を描いているようなら要注意と見るのが良いでしょう。軽度の順反りなら事実上問題とはなりませんが、それがさらに進行していくことも懸念されるため、やはり重要な点検項目と言えます。

2.フレット

少し長い目でみた場合、これは消耗品の一つです。ギターのフレットは使用時間に比例して磨耗していきますが、特に3弦と4弦上第2フレットの磨耗が著しくなりがちです。
極度に磨耗が進むと音のビリつきやピッチの狂いが出てきますので、フレット全体のレベル調整、または総交換が必要となります。もちろん中古ギターのフレットは大なり小なり減ってきています。あとどの程度の期間で補修が必要となるかを見極めなければなりませんが、これには眼力が必要です。一般愛好家が自力で優良中古品を求める難しさの一つと言えますが、相当のキャリアを持つギタリストでなければ、その的確な判断はほとんど不可能でしょう。

フレットについて分かりやすいトラブルは指板両端からの突出です。乾燥によって指板が縮むことから起きる現象ですが、この修理は比較的簡単です。ただし、これが発見された場合は指板だけの問題ならよいのですが、ギター全体が危険な乾燥状態にある場合もありますから、全体を見て判断しなくてはなりません。もう一つのトラブルはフレット浮きと呼ばれるものです。指板にがっちりと食い付くべきフレットが溝から浮き上がってくると、これは極めて判別しやすいですが、その部分で全くギターの音が出なくなります。
この状態のギターが店頭に出てくることはまずあり得ないと思われますが、やはり心得ておきたい事柄です。

3.マシンヘッド(弦巻き)

これも消耗品と見るべき部品です。歯車とツマミ軸の接触部分が徐々に磨耗していきますが、最終的にツマミが空回りしたり、逆に巻き上げにくい程キツくなったりします。
もちろんそれ以前に交換すべきものですが、調弦不可能に近い状態のマシンヘッドの付いたギターが多数あることも事実です。

それとは別にツマミを回すのに力が要るようなら、それはマシンヘッドそのものというより、取り付け部分の問題と見た方が良いでしょう。多くの場合、ツマミを回す度に異音が出ます。反対に穴が大きくなって両者が離れた状態になれば、端の支えを失ったローラーは弦に引っ張られて斜に傾き始め、歯車に大きな負担を押し付けることになります。ここでは異音は出ませんが、ツマミを回す時に異常な手応えが感じられます。

いずれの場合もマシンにとって致命的ですから、取り付け部全体を再調整しなければなりません。しかし現実には、この状態のまま放置されたギターも多数あるのです。経年変化で必然的に起る現象とも言えますから、特に中古ギターの選定では必ずチェックすべきものの筆頭です。

4.ブリッジ、パフリングなどの剥離

胴体に接着された部材の剥がれの有無をチェックします。
ブリッジが剥がれて弦に引っ張られて飛ぶ事故は昔の量産品でよく起ったものですが、品質が大幅に向上した今でも時折見かけることがあります。これはある時に突然飛んでしまうということではなく、じわじわと剥離が進行していき、ブリッジ接着部が弦の張力に耐えられなくなった時点で起きる事故です。従って必ず徴候があるものです。
ギターの低部からブリッジを見て、わずかでも表面板との間に隙間があれば剥がれ始めていることになります。また、パフリングというのは胴体に縁取りされた装飾部材のことで、特に剥がれやすい胴体のくびれた部分や低部などをチェックします。

5.胴体内部の補強材の剥離

ギターの表面板と裏板に内部から貼られた細めの部材を我が国では響木や力木といいますが、薄く削られた板に強度を与えることと、音質を整えることの2つの役割を持っています。
この部材の総数や配置法は製作家によって異なりますが、これらの剥離の有無を調べるのは少し難しくなります。1から4までの点検項目が直接視認できるのに対して、内部の力木の状態は見ることが出来ないからです。

一般的なチェック法は、板全面にわたって軽く拳で叩いていくことです。正常な状態ではコツッという音がしますが、内部材が剥がれた部分ではグシャッという音になります。内科医の触診のような方法ですが、なかなか有力です。ブリッジなどと同じく早期発見して適切な修理を施すことが大事ですが、特にブリッジ部分近辺の力木が剥がれたまま使用し続けると、最も重要な表面板が回復不能なまで歪んでしまうことにつながりかねません。

弾いた時に異音が出るので、普通はそうなる前に気付くものですが、中古ギターの場合、どのような事柄でも前ユーザーに多くを望むことは禁物です。
部材の剥離は長い間には不可避的に起る自然現象と言える面もありますが、湿度が高過ぎる状態で保管されてきたギターに、より多く発生します。湿気を含み過ぎた板が極度の波打ち状態になると、部材はそれについて行けずに剥がれるより他はなくなりますから。

まとめ

ギターの選び方、というような文章は時々雑誌などに掲載されることがありますので、もうきっとご存じの筈ということから、普通には書かれたことのないポイントをお話ししてきました。ギターの一番大切な意味をもう一度見つめ直してみることも必要なことと思いますし、何10万円とか何100万円というお買物に悔いを残して欲しくない、そんなことが動機となりましたが、この小文がギターを愛する皆様のお役に少しでも立つならうれしく思います。